ゴミ屋敷問題の根深く、そして最も理解されにくい原因の一つに、精神的な不調が挙げられます。うつ病や発達障害(ADHD、ASDなど)、強迫性障害、認知症、あるいはセルフネグレクト(自己放任)といった心の状態が、部屋をゴミ屋敷へと変貌させる引き金となることが少なくありません。例えば、うつ病になると、まず現れるのが「意欲の低下」です。日常生活におけるあらゆる行動、例えば食事の準備、入浴、そして部屋の掃除やゴミ出しといった基本的な家事に対しても、やる気が出なくなってしまいます。以前は当たり前にできていたことが、非常に大きな負担に感じられ、何も手につかない状態に陥るのです。ADHDの場合、物を整理整頓する「実行機能」が働きにくく、衝動的に物を買ってしまう傾向があるため、物が溜まりやすくなります。また、どこから手をつけていいか分からなくなり、思考が混乱しやすいという特性も、片付けを困難にさせます。強迫性障害の一種であるホーディング障害(ためこみ症)では、物を捨てることに対して強い不安や苦痛を感じ、その結果、物を溜め込んでしまう状態が続きます。認知症の高齢者の場合、物の分別やゴミ出しのルールを忘れてしまったり、ゴミを大切なものだと認識して捨てられなくなったりすることがあります。さらに、家族との死別や失業、孤独感といった人生の大きな出来事が引き金となり、心身の活力が失われ、生活全般がおろそかになる「セルフネグレクト」の状態に陥ることもあります。このような状態では、部屋が汚れていること自体が気にならなくなり、社会との接触を避けるようになるため、問題が外部に知られにくく、孤立を深めてしまいます。心の不調は、単に片付けの行動を阻害するだけでなく、自己肯定感を低下させ、問題解決への意欲を奪うという悪循環を生み出すため、ゴミ屋敷問題に対処する上では、精神的な側面へのアプローチが不可欠です。
心の不調が招く散らかりの連鎖