賃貸物件をゴミ屋敷にしてしまった場合、「原状回復」の義務は、通常の生活で生じる損耗とは全く異なる、非常に重い責任を借り主に課します。一般的に、原状回復とは、借り主が退去する際に、入居時の状態に戻すことを指しますが、国土交通省のガイドラインでは、通常の経年劣化や損耗については貸し主負担とされています。しかし、ゴミ屋敷化した物件においては、これらの基準が適用されず、借り主の「善管注意義務違反」による損害と見なされるため、そのほとんどが借り主の負担となります。借り主の責任範囲は、まず「ゴミの撤去と処分」です。部屋に散乱している全てのゴミや不用品を撤去し、適切に処分する義務があります。これには、一般ゴミはもちろん、粗大ゴミ、家電リサイクル品、危険物なども含まれます。次に、「特殊清掃と消臭」です。ゴミ屋敷特有の強烈な悪臭や、壁、床、設備に染み付いた汚れは、通常の清掃では除去できません。排泄物や腐敗物による汚損、カビの発生などは、専門的な特殊清掃と消臭作業が必要となり、これらは借り主の責任となります。特に、悪臭の原因が建材にまで染み込んでいる場合は、壁や床の張替えだけでなく、下地材の交換まで必要となることもあります。さらに、「害虫駆除」も借り主の義務です。ゴミ屋敷では、ゴキブリ、ダニ、ハエなどが大量に発生していることが多く、これらを駆除し、衛生的な状態に戻す責任も借り主にあります。そして、「建物の損傷に対する修繕費」です。ゴミの重みで床が沈んでしまったり、カビや湿気で壁や柱が腐食してしまったり、あるいはペットによる引っ掻き傷や排泄物のシミなど、借り主の不適切な管理によって生じた建物の損傷は、全て借り主の負担で修繕しなければなりません。これには、壁紙の張り替え、床材の交換、建具の修繕、水回りの設備交換などが含まれます。場合によっては、建物の構造自体に影響が出ていることもあり、大規模なリフォーム費用が発生することもあります。つまり、ゴミ屋敷化した賃貸物件の原状回復義務は、入居時の状態に戻すだけでなく、劣悪な環境によって生じたあらゆる損害を、借り主の費用と責任において修繕・回復させることを意味します。この重い義務は、借り主にとって非常に大きな経済的負担となることを理解しておくべきです。
賃貸物件の原状回復どこまでが借り主の義務