その依頼の電話は、若い女性からでした。「一人暮らしの父が亡くなり、遺品整理に行ったのですが、部屋がゴミ屋敷状態で、とても私たちの手には負えません」。声は、疲労と絶望で震えていました。私たちが彼女と共に訪れたのは、都心にあるワンルームマンションの一室。ドアを開けた瞬間、強烈な異臭と共に、天井まで積み上げられたゴミの山が、私たちを圧倒しました。コンビニの弁当容器、無数のペットボトル、古雑誌、そして、何が入っているのかも分からない黒いゴミ袋。床はどこにも見えません。私たちは、まず依頼者である娘さんから、お父様の人柄や、探してほしい物について、じっくりとお話を伺いました。「父は昔、カメラが趣味でした。古いカメラやレンズが出てきたら、残しておいてほしいです」。その言葉を胸に、私たちの作業は始まりました。防護服とマスクを装着し、まず玄関からの動線を確保します。ゴミを一つ一つ手作業で仕分け、貴重品や写真、書類などがないかを確認しながら、袋に詰めていきます。作業開始から数時間後、ゴミの山の中から、ホコリを被った革製のカメラバッグを発見しました。中には、年代物のフィルムカメラと、数本のレンズが、まるで宝物のように大切に収められていました。娘さんにそれを見せると、彼女は「ああ、これです。父がいつも首から下げていたカメラ…」と、涙を浮かべました。その後も、私たちは、お父様が撮りためたであろう、古いアルバムを何冊も見つけ出しました。そこには、若かりし頃の家族の笑顔が、たくさん詰まっていました。最終的に、部屋から運び出されたゴミの量は、2トントラック2台分。全てのゴミがなくなり、クリーニングを終えた部屋は、がらんとしていましたが、そこには、カメラとアルバムという、かけがえのない思い出が残されました。不用品回収とは、単に不要な物を捨てる作業ではありません。時には、ゴミの山に埋もれた、誰かの大切な人生の一部を、再び見つけ出す仕事でもあるのです。