自治体の環境課でゴミ屋敷対策を担当している私にとって、行政代執行は「敗北」に近い決断でした。もちろん、近隣住民の方々の平穏な生活を取り戻すのは私たちの使命ですが、一方で執行という手段は、居住者という一人の市民の生活と尊厳を力ずくで剥ぎ取る行為でもあるからです。私たちの仕事は、代執行をするためにあるのではなく、代執行をせずに解決するためにあります。そのため、私たちは一人の居住者に対して、何十回、何百回と訪問を繰り返します。ゴミの中に埋もれて生活している人々の多くは、孤立や喪失、精神的な疾患、あるいはセルフネグレクトという深い闇を抱えています。彼らにとって、周囲から見ればゴミにしか見えない物も、自分を守るための最後の城壁であったり、亡くなった家族との数少ない接点であったりします。それを「汚いから捨てなさい」という言葉だけで解決しようとするのは、あまりにも暴力的なアプローチです。私たちは保健師や福祉相談員とチームを組み、まずは玄関先での挨拶から始め、時には一緒にお茶を飲み、彼らの人生の物語を聞くことから始めます。信頼関係を築き、自発的に物を捨ててもらうための支援を尽くします。それでも、どうしても話が通じず、火災の危険性が高まり、近隣の子供たちが健康を害するような状況になれば、苦渋の決断として行政代執行の手続きを進めます。執行当日、所有者が泣き叫びながら抵抗する姿を見るのは、何度経験しても心が痛みます。私たちは執行の最中も、可能な限り「思い出の品」や「貴重品」を仕分け、彼らの心を守る努力をします。代執行は物理的なリセットにはなりますが、心の問題を解決するわけではありません。執行が終わった瞬間に、私たちの次の戦いが始まります。代執行後の抜け殻のような状態になった彼らを、どうやって福祉的なサポートに繋げ、二度と同じ過ちを繰り返さないように見守り続けるか。行政代執行という剣を抜くとき、その刃が自分自身の倫理観や使命感をも傷つけているような感覚を覚えることもあります。それでも、地域全体の安全を守るという責任の重さが、私たちの背中を押し続けています。
ゴミ屋敷対策担当者が明かす行政代執行に至るまでの葛藤